中国のWeChatが予言する、FacebookとMicrosoftのボットプラットフォームの未来
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※本記事はMediumに掲載された「China’s WeChat Foretells Facebook / Microsoft Bot Platforms’ Future」を著者・Michael Yuan氏の許可を得て翻訳し掲載しているものです。

WeChatから学ぶ

チャットボットは2016年のアメリカで最も熱いテックトレンドだろう。MicrosoftとFacebookの発表を皮切りに、突然多くの人が話題にし始めたように思う。しかし、Appleがスマートフォンを発明したわけではないように、FacebookとMicrosoftが現代のモバイルメッセンジャーアプリにおけるチャットボットを発明したわけではないことを頭に入れておくべきだと思う。実際に、中国のWeChat(7億人も月間利用者がいる)は、2013年からボットプラットフォームを立ち上げ、成功を収めている。私たちは、過去3年間のWeChatの成功と挑戦から多くを学ぶことができる立場にいるのだ。

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WeChat特有の言葉で、ボットアカウントは「パブリックアカウント」と言う。まず、WeChatのパブリックアカウントはものすごい成功を収めていると伝えておこう。もしあなたが、今、中国でビジネスを始めるのであれば、WEBサイトを公開する前に、WeChatのパブリックアカウントを作るだろう。また、中国にはベンチャーキャピタルから資金を調達したスタートアップがたくさんいるが、彼らは時価総額何十億円という規模なのに、WEBサイトを持っていないことさえある。中国におけるインターネットの検閲は、どのWeChatのパブリックアカウントも非常に曖昧な「違反した内容」という理由で何百万人ものフォロワーとともに削除できることを考えると、WeChatにおけるボットのエコシステム(生態系)はビジネスや日々の生活にとって欠かせないものであるということがわかるだろう。

WeChatボットの種類

3年間における進化の後に、WeChatは現在、2種類のパブリックアカウントを提供している。それは、「購読アカウント」と「サービスアカウント」の2つだ。2種類ともチャットボットとして始まったが、どちらもゆっくりと人工知能に重点を置かないかたちに成長をとげた。

「購読アカウント」を簡単に説明すると、配信側は今日の新しいコンテンツの一覧を購読者全員に送り、購読者はそれぞれのコンテンツをタップするだけでアプリに埋め込まれたWEBブラウザの中でコンテンツを見ることができる。ここで、このWEBブラウザは外部のWEBサイトを開くことはできないということを補足しておきたい。WeChatはそれぞれの読者をしっかりと識別しているので、「記事が何回読まれたのか?」「何人が”いいね”をしたのか?」を正確に配信側に報告をしている。配信側と広告主にとっては、これはかなり魅力的だ。また、画面の下の方に、赤いボタンと何列ものアバター(顔写真)が置かれているが、これはWeChat決済アカウントから直接記事を書いた人に「寄付」ができるという機能だ。

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(左)午後7:46にボットにより配信された新しい記事
(中)記事をWeChat上で開いてみた
(右)スクロールすると寄付ボタン、そして正式なページビューやいいね数

サービスアカウントは消費者向けの組織がWeChat上で顧客と対話するためのものだ。例としては、航空会社、ホテル、ネット通販だ。当初、WeChatは人工知能チャットボットが人に対してカスタマーサポートを提供することはできないと考えていた。従って、多くのFacebookページと同じく、それぞれのサービスアカウントは1人かそれ以上の実際の人間のアカウントを「サポート対応」として指定できるようにした。次の図では、6つの代表的なカテゴリーにおけるカスタマーサポートボットたちだ。スクリーンショットの中で、顧客対応向けのWeChatアカウントは、「Service Staff」と表示されている。

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(時計回りに)携帯電話会社、EC(中国のAmazon)、自動車、航空会社、金融サービス、保険会社のアカウントだ

シンプルさを重視

WeChatはかなりメッセージングに注力しており、2つのパブリックアカウントは会話形UIに対応している。購読アカウントは、ボットが新しい記事(コンテンツ)を届けられる。ユーザーは、テキストで記事を取得できたり、特定のアクションを取ることができる。

  • 記事の中で「記事の中で紹介されたパワーポイントの資料をダウンロードしたければ、’42’と入力してね」と入力が示唆される
  • ’目次’と入力すると最新の記事一覧を取得できる。
  • ‘お問合せ’と入力すると問い合わせするためのWebサイトのリンクを取得できる。

これらはすべてものすごく簡単なコマンドやきっかけとなるキーワードなのだ。それぞれは、WEBページを表示したり、素早くダウンロードするためにデザインされている。あったとしても数少ないが、自然な言葉でユーザーと対話できるボットはほとんどない。

では、サービスアカウントではどうだろうか?カスタマーサポートでは、顧客との行ったり来たりする会話(長い会話)が必要にならないだろうか?次のスクリーンショットは、実際に行われた航空会社とクレジットカード会社のカスタマーサポートにおける会話事例だ。すべての文字は中国語で書かれているが、なんとなく何が行われているかは想像できるだろう。もう一度言っておくと、簡単なきっかけとなる言葉とコマンドが鍵だ。

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※左側2つの画面は航空会社との会話で、右側2つはクレジットカード会社との会話だ。

コマンドラインは何十年もの間、コンピューターの貧弱なUIとして蔑まれてきたが、文字を入力しメッセージを送るのが当たり前の世界で育った新しい世代の消費者たちは、テキストベースのコマンドでコンピューターを操作できるという考え方にもっと共感するだろう。

いくつかのカスタマーサービス向けのアカウントでは、アカウントの所有者がユーザーとの直接の会話に移行することができる。会話は自動化されたかたちで始まるが、ボットはユーザーの意向を理解するとすぐに、関連したWEBページにユーザーを飛ばしたり、人間のサポート対応に引き継ぐこともできる。

また、ユーザーがコマンドやきっかけとなる言葉を発見しやすくするために、アカウントの所有者は、入力欄を表示しないで、メニューボタンを代わりに表示することができる。多くのアカウントがこの方法を採用している。
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※入力欄とコマンドの一覧を切り替えられる

ここまで、WeChatのサービスアカウントは、ボットベースであり、長めの会話もできることをお伝えしてきた。最も有名な例としては、MicrosoftのXiao Ice(中国語版りんなちゃん)だろう。このボットは、人間の会話を、実際の大量の会話ログから学習し、何時間でも楽しい会話をできるようになっている。実際にXiao Iceは、4000万人以上の人に使われ、彼らの25%が、「I love you(愛してるよ)」とXiao Iceに話しかけているのだ。多くの人が、Xiao Iceのことをチャットボットではなく、彼女だと考えている。しかし、Xiao IceのようなAIによる会話ボットはほとんど実験的で、WeChat上では面白(娯楽)アカウントとして提供されている。

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※Xiao Iceとの会話(中国語と英語)

まとめ

ポイント1 - それぞれのボットはそれぞれの会話形式が必要だ。多くのボットにとって、WEBサイトへ飛ばすような簡単なコマンドやきっかけとなるキーワードを用意するだけで十分だろう。

ポイント2 - 長めの会話は、抽象的な利用ケースに適している。例えば、特定商品のカスタマーサポートだ。その場合でも、WEBサイトに遷移させたり、人間のサポートに対応させるのが懸命だろう。

ポイント3 - メッセンジャー上で提供されるボットの価値は、ボットがユーザーの個人情報や支払い手段に簡単にアクセスできる必要があるので、プラットフォームとの連携に強く依存するだろう。

特に2つめと3つめのポイントにおいて、Microsoftのボットプラットフォームが有望だと私は思っている。LUIS.aiのデモにおいて、Microsoftは、カスタマーサポートにおいて、サポート対応が実際の顧客の発言にもとづいてAIを学習させ、対応できる会話を増やしていくという改良をすることができると説明していた。また、Cortanaのデモにおいては、Microsoftは、ユーザー情報だけでなく、会話の文脈や意図を理解できるようにすると約束していた。私は、これらの面白い技術をとても楽しみにしている。

WeChatを超えて

最後に何点か伝えておきたいことがある。

まず、WeChatがボットの生態系作りにおいて重要な滑り出しをみせた一方で、WeChatは、イノベーションを妨げてしまうだろうたくさんの制限を設けている。最も過激な制限は、検閲だ。

そして、この3年間で自然言語処理と人工知能の技術は英語に焦点を当てながら、かなりの進化を遂げている。

最後に、スマートフォンの歴史は、ときたま、幸先のよい滑り出しは急激に変化する技術環境の中で、ほとんど意味をもたないことを教えてくれる。イノベーティブな会社(AppleやGoogle)は、長年先行している会社(Nokia, Blackberry, そしてSony)に追いつくだけでなく、抜かしてしまうこともできる。だから、私たちはWeChatの経験から学ぶことができる一方で、何がおこるかは決して予言できない。私は、このボットプラットフォームの上でどんな起業家が現れるのかを楽しみに見ている。
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